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第6話 同じ側に立つ

작가: marimo
last update 게시일: 2026-02-18 20:05:53

東亜リンクス商事の会議室は、朝から張り詰めていた。

「海外エネルギー開発プロジェクトの件ですが――」

上司の声を聞きながら、

鷹宮綾乃は、静かに資料に目を落としていた。

表向きは、順調。

だが裏では、数字が合わない。

説明のつかない送金。

曖昧に処理された外注契約。

綾乃の胸の奥で、警鐘が鳴り続けていた。

(このまま進めば……必ず問題になる)

そして、その影に、九条ホールディングスの名前があることも、

綾乃はすでに把握していた。

会議終了後、綾乃は直属の上司に呼び止められる。

「鷹宮君、この件はこれ以上深入りしなくていい」

柔らかな口調。

だが、有無を言わせない圧があった。

「確認は、課長としての職責です」

綾乃がそう返すと、上司の表情が一瞬、硬くなる。

「……君は、立場をわかっているはずだ」

その言葉で、すべてを悟った。

――これは、内部の問題ではない。

――すでに、引き返せないところまで、来ている。

その夜。

九条邸に戻った綾乃を待っていたのは、

書斎の灯りだった。

珍しいことだった。

「座れ」

九条玲司は、立ったままそう言った。

机の上には、綾乃が集めていたものと、“同じ内容”の資料が並んでいた。

「……どこまで知っているの?」

「君と、ほぼ同じだ」

玲司は、淡々と答える。

「この案件は、誰かを切れば済む話じゃない。切れば、必ず裏が暴れる」

綾乃は、拳を握りしめた。

「だから、黙っていた?」

「だから、君を見ていた」

はっきりとした答えだった。

「この件を正面から処理するには、

 東亜リンクス側に“中から切り込める人間”が必要だ」

「……それが、私?」

「他にいるか?」

その問いに、綾乃は答えられなかった。

「安心しろ。君一人に背負わせるつもりはない」

玲司は、初めて一歩近づいた。

「九条ホールディングス側の責任は、俺が引き受ける」

その言葉は、命令ではなかった。

宣言だった。

綾乃は、ゆっくりと息を吐く。

(逃げ場が、なくなった)

だが同時に、

一人ではないという事実が、わずかに胸を軽くした。

「……条件があるわ」

「言え」

「情報は、すべて共有すること。隠し事は、しない」

玲司は、少しだけ目を細めた。

「それは、難しい要求だ」

「できないなら、この話は降りる」

数秒の沈黙。

やがて、玲司は静かに頷いた。

「わかった。だが覚悟しろ」

「何の?」

「知れば、もう戻れない」

その瞬間、綾乃は初めて、九条玲司という男の“覚悟”を、はっきりと見た。

冷たいだけの男ではない。

切るだけの人間でもない。

この人は、守ると決めたもののためなら、自分が傷つくことを厭わない。

そう理解した瞬間、綾乃の中で、何かが静かに動いた。

信用はしない。

だが――

背中は、預けられるかもしれない。

二人は、机を挟んで向き合う。

夫婦としてではない。

利害関係者としてでもない。

同じ側に立つ者として。

その夜、

九条邸の灯りは、いつもより遅くまで消えなかった。

そして――

この共闘が、二人の関係を、もう後戻りできない場所へと連れていくことを、

まだ誰も知らない。

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